デマゴーグ

先日フォロワーが、「テイクアウトした料理の中にパクチーが入っていて最悪」ってツイートしてるのを見て、そういえば随分前に姉とパクチーを食べたことがあったなと思い出した。
当時わたしは高校生で、夏期講習かなにかのために東京に住んでいる姉のところに泊まりにきていて、張り切った姉が「奢ってやる」と言ってわたしを渋谷に連れ出したのだ。適当に入ったアジア系の料理の店で、パクチー大盛り無料です!サービスです!って机に置かれたんだけど、一口で私が「食べない」って言ったから、大盛りのパクチーを全部姉が食べていた。可哀想。
言い訳するとわたしは「わたしは食べない」と言っただけで、姉に「食べろ」とは言わなかったし、むしろ「残せばいいじゃん」って言った。食べたのは姉の勝手だけど、今思い返すと、なんとなく、ああいうことの積み重ねで、彼女は自分が貧乏くじを引かされてるって思ってるところはあるのかな、と思った。


わたしは悪魔のような子どもで、しかも食い意地が張っていたわけだが、小学生の頃おやつにマクドナルドのポテトを「二人で分けなさい」と与えられた時に、どうすれば自分が一本でも多くカリカリのポテトを食べられるか必死に考えたことがある。
姉もわたしもカリカリが好きだったから、バカ正直に上にあるやつから食べて行くと当然カリカリを食べられる割合は少なくなるわけだ。最後に一番美味しい気分で終わりたいのは山々だが、カリカリをより多く食べられる方が嬉しかったので、わたしは黙ってよりカリカリなポテトを探しながら食べ進めた。姉は上にあるポテトから食べていた。
ばかだなあ、と思ったのを覚えている。悪魔か?
この時はたしか途中でバレて、めちゃくちゃキレられたな。でも、上から食べましょうなんて約束はしていないので、何を言っているんだコイツは……と思っていた。悪魔かもしれん……。


貧乏くじエピはもう思い出せる範囲ではない……というか基本的に悪意を持ってやっているわけではないのだが、わたしの意識していないところで他にもたくさんあるんだろうな、と思った。

姉に、お前が悪いのだ、お前のせいで鬱病になったのだ、と何度か言われたことがある。
その度にそれは違うだろうと口にしたし、実際のところ、彼女の人生に責任を取るべきなのはわたしではない、と今でも思っている。わたしが要素の一つではあるかもしれないけれど、影響を受ける、意識せざるを得ないという点で言えばお互い様だ。わたしだって彼女の影響を受けているし、比べ合いながら生きてきた。

けれど思い出すにつれ、ちょっと姉の言いたいことが理解できるような気がしてきた。わたしは先述したように大層賢く天使のように可愛らしい無邪気な子どもであったし、負けず嫌いでもあったので、ポテト早食い競争、暗記競争、算数クイズ王決定戦、パソコンゲーム、逆上り、ブランコの立ち漕ぎに至るまで姉よりも早く習得したし、なんなら逆上がりを半泣きで練習する姉の隣で「なんでできないの?」と言わんばかりに逆上がりをやってみせたことすらある。本当に悪魔のような子どもだな……。

一方で自分が受けたダメージに対しては、わたしは立ち直るのも早く、物事を噛み砕くのも上手くて、いい感じに感情に鈍麻なのだろうと思う。誰に怒られてもけろりとしていたので、たいてい大人に匙を投げられて終わりだった。話が終わったらなんでもない顔で「今日のご飯なに?」とまとわりつく食い意地の張り具合。三つ子の魂百までってもしかしてこのこと?


話は逸れたけど、そういう小さいことの積み重ねが、姉にとってはストレスだったことは否めないなあ、と思った。
とは言え、彼女の主張に迎合はできないけど。だってどうしようもないことだ。わたしがどういう性質だった (である) にせよ、悪意を持って彼女を傷つけたことはないわけだし。
わたしは彼女にめちゃくちゃ傷つけられたけど。悪意を持って傷つけられましたけど。それは全然、まったくもって、これっぽっちも赦してないわけだけど。
でも、彼女がそういうわたしの性質からくる無神経さを赦さないっていうなら、わたしはそれでいい。それはどうぞご勝手に。一生赦さないで、お互いに離れて生きていきましょうねというだけの話だ。本人にも何度か言ったし。でも、多分その振る舞いにも彼女は傷ついたんだろう。ごめんね。けど、それしかないじゃない?



姉のことは嫌いだし、馬鹿だなあと思っている。この数年は特にそう。
誰かと自分を比べてどっちが上だの下だの考えているところも、「幸せ」の形の定義があると思い込んでいるらしいところも、自分のことを客観的に見られないところも、すぐに論理が飛躍するところもぜ〜んぶ、馬鹿だなあって思うし、苦手だ。嫌いだ。一生関わんな。

でも、傷ついているらしいことを親伝いに聞くと、その傷をちゃんと癒せるようになればいいな、とは思う。
彼女のことを嫌うのとは別のところで、彼女のことを愛しているわたしがそう思う。きょうだいだからではなく、一定期間同じ空間を共にした人間に対して、そういう祝福を向けている。


デマゴーグ

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