再放送

慎二の話、わたしはたびたびTwitterでしていますが、長くなる話はここで書けよという感じなのでここで書きます。

慎二、間桐慎二Fate/Stay nightに登場するキャラクターです。特技は名推理、探し物。子犬と特権が好きで、無条件で幸せな空気が苦手。魔術師の家系に生まれながら、魔術回路を持たない一般人。魔術師である義妹(養子)が祖父や父から魔術の厳しい指導を受けるのに対して、魔術が使えず次期当主になれない「いらない子供」。それを自覚してからは妹を虐待し続けた、傷害事件の加害者でもあります。

 

Stay night Heaven’s Feelのヒロインは彼の妹・桜なのですが、第二章を映画館で鑑賞している間、わたしは桜よりなにより慎二のこと考えてしまった。開始20分くらいからずっと。

もちろん彼のしたことが赦されるわけじゃないと思うし、わたしも赦さない。赦すなんてことは誰にもさせちゃいけない、あいつは誰が何と言おうと悪いことをした。

 

でもね、あの子はまだ高校生で、誰にも子ども扱いを今までされたことなんてなくて。そりゃもちろんあれの登場人物はみんなそうなんですけど、なにか拠り所があったじゃないですか、それが健全かどうかは別ですけど。

でも彼にそれはあったのか?と言われるとまあない、ないから作り出すしかない。そうやって妹を見下して生きていくよりほかに彼が生きていく方法がどこかにあったなら貴方が示してあげてくださいよ。できます?

しかも、桜を人形だと嘲笑う自分自身こそが本当は人形なのだと気が付けない、そんな馬鹿に見えますか?あの子が。

気づいていました。気づいていましたよ。だからこそ暴力を振るった。それしかできないから。そうやって優位に立たなければ、彼は生きていけなかったから。

そんな生きがいなんてくそくらえです、間違ってる。でも、じゃあそれをやめて、それであの子はどうしたらいいんでしょうか。どうしたらいいのかさっぱりわからないのに。

別に誰かのせいじゃない、強いて言えば目を逸らすことが下手だった慎二がわるかった。出会ってしまったことが罪だった。抱きしめて、叱ってくれる誰かがいないことがもう既に罰なら、それよりほかに何がいるって言うんですか?

 

徹底して慎二のことが描かれないこともつらかった。慎二の言葉ではなくて、慎二の背負った苦しみは全部桜が代弁して。ここ本当に描写がうまくて吐き気がしました。あの子はついぞ、スクリーン越しの観客に語る機会すら持つことができなかった。

わたしは遠坂凜(別ルートのヒロイン)が好きなんですけど、彼女の持つ「持てるものの傲慢」には、その傲慢をも自覚し飲み下した人間の覚悟みたいなものがあるように思います。でも桜にはそれがない。桜は慎二にとってまさしく、まさしく「持っている人間」だったのに。それがないから余計に慎二は苦しくて、妬ましくて、「これ以上なにも取らないで」って。本当は叫びたかったんじゃないですか。桜が士郎(主人公)や凛にしたように。

しかし、かといって桜には「持てる者の傲慢」なんて持てるはずもない。なぜなら彼女もまた持たざる者だから。

そして彼女の「持たざる者」としての態度が、それでいて義兄を憐むその顔が、また慎二を苦しめる。

ねえ、桜はかわいそうですか。桜が犯した罪は仕方のないものでしたか。慎二はどうですか。

桜のことを可哀そうだと憐れむのなら、慎二まで憐れんでくださいよ。

桜のことは赦さないでください、慎二のことを赦さないなら。

慎二だけが悪者にされて、報いを受けた後も嘲笑されて、主人公に肯定されたヒロインだけが哀れまれてしあわせを願われるなんて、わたしはおかしいと思う。

衛宮士郎が桜のことを赦す唯一の人間になるのなら、わたしは慎二のことを抱きしめてあげられる大人になりたかった。叱ってあげられる大人になりたかった。導いてあげられる、一緒に考えてあげられる大人になりたかった。世界はもっと広くて、たくさんの面白いものがあるんだと教えてあげたかった。見せてあげたかった。あの子の考えたことを聞いて、言葉を返してあげたかった。

それでもきっとあの子は、たとえ隣でわたしがそうしていたって、衛宮士郎に手を伸ばすのをやめられないだろうと思う。それはそれでいい。

そう簡単に諦められるものでもないだろうし、諦めるあの子になって欲しくもない。でも、それとは別に、お前の隣を走ってお前と対等に殴り合える誰かを見つけて。それまでは孤独に生きて。罪を抱えて贖い続けて。それでいて十全に満ち足りろ。

とはいえ二章であの子は死にました。報いを受けてしまった。死んだあの子の見られなかった明日を見るために、そのためだけにわたしは劇場に行きます。

ねえ慎二、世界は本当は、もっと広いのよ。